浮気

彼氏に浮気してもいいよと言われた。

私はあまりのことに開いた口が塞がらなかった。彼氏に浮気してもいいと言われる女がどこにいるのよ。浮気ってしちゃいけないから浮気って言うんじゃないの?彼女に浮気してもいいと言うなんて失礼にも程がある。だって、それって私が浮気するような軽い女って言ってるようなもんじゃない。

彼氏には一週間前に告白された。私はそのとき返事に渋った。彼氏のことは嫌いじゃない。けど、私って付き合っても続かないし、それに好きって急に言われても、私は好きって感情がよく分からないから、彼のことを好きになることはできないの。それでまた、なあなあにオーケーしてもまたすぐ別れるだけ。それだったら彼と今のままがいい。無理に恋人になるよりそっちの方が絶対に楽しいから。でも、そんな私でもどうしても付き合いたいのなら考えてもいいかな。私はそんな感じで彼に伝えた。こんなわがままな女、もしかしたら嫌いになるかもしれない。そう期待しながら。私には男と付き合う資格なんてないのだ。

彼はしばらく考えた後、それでもいい、付き合おうと言った。この人は正気かしら。あなたのことを好きになれないとか、どうせ別れるでしょって言ってる女と付き合いたいとかどうかしてる。そう思ったけれど、私もこう言ってしまった手前、付き合うことにした。

一週間の間、彼は一回もメールをしてこなかった。彼から付き合おうと言いだしたくせに、私を構おうともしないのはどういう了見なのだろうか。本当に私のこと好きなのかしら?と腹が立った。しかし、さっき、突然彼からメールが来た。メールの内容はたった一行で「どう?元気?」だけ。いよいよ、私は怒った。私は彼の恋人としてどうしたらいいの。だからこう返した。「どう元気じゃないわよ。なんでメールを送ってくれなかったの。あなたは私に何を求めているの?本当に私のこと好き?」自分の書いたメールも読み返さず速攻で送ってやった。

そうしたら、しばらく経ってこう返ってきた。「ごめんね、メールされると煩わしいと思って。これからはちゃんと送るようにするよ。もちろん、君のことが好きだし、君とたくさんお話がしたいからね。」彼の返信には肝心なことが書いてなかった。けれど、私の勘違いもあったんだと思ってもう一回冷静になって聞いてみた。

「私は、あなたの恋人としてどう振る舞えばいいの?例えば一週間に一回会うとか、メールは1日1回はするとかそんなん。恋人なんだし全然言ってくれていいんだよ、遠慮してないで。」私の精一杯の優しさだった。私も男性に好かれるのはとても嬉しい。自分が認められているような気がするから。だから精一杯大切にしたい。だけど、そんな私の配慮は無駄だった。

「ううん、俺は君に求めるものなんてないよ。メールを1日に1回するなんて決まり、息苦しいでしょ?君には自由にやってもらって構わない。そうだな、敢えて言えばお互い話したいときに話してくれる相手になってくれればそれ以上はいらないかな。」

私は余計憤った。彼の言い分は分かる。でも、求めるものがないなんてあまりにもおかしいんじゃないか。そんなん恋愛だなんて言わない。だから、私はさらに聴いてみた。「求めるものがないなんておかしいんじゃないの?じゃあ、私が浮気したってなんも思わないの?」さすがに言いすぎたかなと思ったけれど、予想外に彼はこう返してきた。

「もちろん浮気したって別に構わないよ。君がしたかったらすればいいんじゃないかな。」私は怒りを通り越して呆れてしまった。彼は一体何がしたいんだろう。私は少し寂しくなった。私のことが好きならもう少し束縛してくれてもいいのに。

もし本当に私が浮気したとして、彼が私のこと本当に好きだったとしたら、悲しまないはずがない。逆の立場だったら絶対に悲しいはずだもの。過去に、元彼氏と付き合ってるときに、私が他の男と食事したときがあって、凄く嫉妬されたことがある。そいつとは毎日食事してたのに、一回他の男と食事にいっただけであんなに怒るなんて、男ってめんどくさいって思って別れた。でも、それってあの男が私のことをとても好きでいてくれた証拠だったとは思う。なのに、浮気をしてもいいという男もいるなんて世の中全然分からないもんだ。

結果的に私は浮気をした。別に彼のことが嫌いになったんじゃない。やけになっただけ。どうせ彼も本当に私が浮気するとは思ってないからああ言えるんだろうし、痛い目を見たらいいんだ。二度と浮気してもいいなんて言わせないであげる。私はそう思いながら他の男と寝た。その男は、お前みたいな可憐な女を悲しませるなんてお前の彼氏は男の風上には置けないねぇ、とニヤニヤした顔で言ってきた。正直どうでもよかった。

私は彼氏に他の男と寝たよと伝えた。これで少しはわかってもらえると思った。彼とはもちろん体の関係はまだない。だから尚更この人は怒ると思っていた。でも、違った。

「お、そうなんだ!うまくいった?」

は?うまくいく?なんだそれ。浮気にうまくいくもなにもないじゃん。意味がわからなかったから「え?」と送った。そうしたら「いや、浮気は楽しかったんかなー?と思って。」と返ってきた。「楽しかったらどうなのよ。」「そうしたら、君が楽しそうにしているのも嬉しいし、なにより君が他人を喜ばせることのできる人間なんだってことを誇りに思うよ。だから、楽しかったんならよかったなーって思う」

誇りに思う?浮気した人間に?私が楽しかったのならそれが嬉しい?この人はなにを言っているんだと思った。思ったけれど、彼の言っていることが少しわかってきた気がする。実は浮気は全然楽しくなかった。彼のことを考えながら他の男と寝るのはとても虚しかったし、浮気したと伝えても彼がこんな調子じゃ全然面白くなかったからだ。それに、浮気相手の男は彼のことを男の風上にも置けないと陰口を言ったのに対して、彼は私が楽しいかどうかを気にしてくれると同時に、なんと浮気相手のことも考えてくれているのだ。そんな彼の器の広さを実感したら、私のしていることは本当に小さなことだった。

「ううん、全然楽しくなかった。」私はそう答えた。そうしたら彼は「そうか…。楽しくもないことを無理にやるのはダメだよ。言いたいことがあったら、溜めないで俺に言ってごらん。ちゃんと答えるから。君の彼氏だからね。」そう優しく言ってくれた。

私の聞きたいことは一つだった。「私のこと好き?」彼は「うん、好きだよ。」そう答えた。今の私にはその一言だけで十分だった。

広告

小雪 について

「愛」の概念について探求している、某国立大学の学生 プラトン、アリストテレス、アウグスティヌス、ベルナール、トマス・アクィナス、スコトゥス、パスカル、キルケゴール等の様々な思想家、 フロイト、ユングといった心理学者、 ユダヤ教、キリスト教などの宗教について広く調べています。 最近では、自由意志の認識がもつ社会的影響など実証的な研究にも興味が出てきています。 長らく哲学を専攻していましたが、心理学に転向することを考えています。
カテゴリー: 恋愛小説 パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中