ビギニング

あいつは、気が付いたらここにいたっていってた。

俺があいつを最初に見たのは、俺が店からトカゲの肉を盗んできて、その辺の草をかき集めて作ったささやかなアジトで仲間と分け合っていたときだ。
俺の村は、周りが砂漠に囲まれた資源の乏しいところで、地下水のおかげで生えている少々の草とそれに群がる爬虫類などの動物を狩猟し、加工しながら生きながらえてきた小さな共同体だ。
四季はなく、年中日が照っているために村人の肌は浅黒く、シミやそばかすも多い。もちろん髪の毛はみんなぼさぼさだ。
だからこそ、あいつの白いきれいな肌と長い髪には違和感があった。そして、それを強く憎んだ。今思えば、俺は本当に最低だったと思う。

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パン屋のルーシー

「私はルシア、フランス人とのハーフなの。ルーシーと呼んで」

僕が彼女と初めて言葉を交わしたとき、彼女はそうやって誇らしげに自己紹介をした。

夏休みも終わって、九月のある日、彼女は突然、僕たちの小学校に引っ越してきた。彼女の姿はとても美しくて、大人が着ているようなキラキラした洋服を着ていて、そして一番僕の目を惹いたのは、その長く伸ばした金髪だった。僕はテレビでしか金髪を見たことがなかったから、ついつい彼女に見とれてしまった。

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生と死のはざまに小林を思う

「死」とはいったい何であろう。

人は自分が生きていることを実感した時には、その終わりである「死」を必然的に考えるであろう。今私がここに生きているのであれば、死んだらどうなるのかというのは、好奇心の少ない人間でも少なからず興味の引くことである。
人は一回死んでしまったらもう生き返ることはできない。それは有史時代から刻々と受け継がれてきた常識の一つである(まぁ、いくつかの例外はあるがしかし、その復活もそれは私たちの「生」とは質が異なるものである)。それでも僕たちは、プレゼントの中身を探ろうとするように、宇宙の果てを知ろうとするように、私たちは生の向こう側を知ろうとしたがるものである。

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自分自身が山

どこからどこまでが、自分なんだろう。
時々ふとした瞬間に考えてしまう。
例えば自分の目の前にあるこの右手が本当に僕の右手なのか、あるいは本当に僕の右手であるならばどのような因果で僕の右手であり得るのか、またこれからも僕の右手であり続けてくれるのか。

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飛んで火にいる夏の虫

気が付いたら、僕は駅のホームにいた。
だいぶ夜も更け、色が変わってしまった壁と、こびりついた無数のガムが目立つ床がなんとも物寂しい無人駅で、遠慮がちについた簡素な屋根の合間から見える星々が美しく瞬いている。
もうこのあたりは冬らしい寒さになって、僕は肌を震わせていた。
僕の他にはこのホームは誰もいない。終電はまだ何本か残っているのだが、こんな田舎の駅を利用する客はこの時間にはもう残っていない。僕は、消えかかった蛍光灯をぼーっと見つめながら、深くため息をついた。

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静かな世界を求めて

「万物は不変である。」

これは哲学者パルメニデスが残した言葉である。哲学者が名乗りを上げて、万物を水だの、尺度だの、数字だのと好き勝手言っていた時代に、パルメニデスだけは冷静に、理性的に、「万物は不変である」と結論付けたのだった。

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勝者の慟哭

誰が勝者で、誰が敗者か、それはいったい何が決めるのだろうか。

人間にはそもそも勝ち負けという構造が生得的に備わっている。
何かを得るものがいれば、何かを失うものがいる。
そういった体験が、喜び、悲しみという感情を与えるのだ。 続きを読む

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灯の光が僕を照らす

「enlightenment」という言葉をあなたは知っているだろうか。
手持ちのスマートフォンで調べればおそらく「啓発」とか、「悟り」とか出てくるだろう。
では、「啓発」とはいったい何だろうか。同じく調べると、無理の人に教えを導き、物事を明らかにさせることだとかそんなことが書いてあるに違いない。 続きを読む

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二重スパイ

「他の人には誰にも言わないでね」

俺はこのセリフを幾度となく聞いてきた。比較的人を否定することはなく、口数もそれほど多くない俺は、恋や人間関係の悩みと言った、あまり公にしたくない相談をされることがよくある。

先ほども、メールで友達の相談に乗っていたところだった。 続きを読む

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浮気

彼氏に浮気してもいいよと言われた。

私はあまりのことに開いた口が塞がらなかった。彼氏に浮気してもいいと言われる女がどこにいるのよ。浮気ってしちゃいけないから浮気って言うんじゃないの?彼女に浮気してもいいと言うなんて失礼にも程がある。だって、それって私が浮気するような軽い女って言ってるようなもんじゃない。

彼氏には一週間前に告白された。 続きを読む

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